大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)147号 決定 1961年12月18日

抗告人 今長スヱコ

主文

原審判を取消す

抗告人の名「スヱコ」を「妙伝」と変更する

ことを許可する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

本件記録によれば、抗告人は約十二年前夫を失い一人暮しで亡夫の畑約一反を耕作して生活の糧を得ているものであるが、約五年前から信仰の道に入り、昭和三十六年三月十三日中津市等覚院住職の得度を受け、同年四月三日高野山真言宗管長より「妙伝」の僧名を受け、爾来肩書自宅に仏壇を設け、ひたすら信仰の道に入り、自宅その他信者方に出向いて信者に仏による衆生済度の道をとき且菩提の供養をなして信者より月平均二千円乃至三千円の喜捨を受けていること、抗告人としては前記僧名に改名しないと真実仏の道に没入し得ないと信じていること等が認められるので以上の宗教生活態度からすれば抗告人は僧侶の職に従事しているものと見て妨げなく、戸籍法第一〇七条第二項の名の変更につき正当の事由に該るものと解する、よつて抗告人の即時抗告は理由があり家事審判規則第一九条第二項を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中園原一 裁判官 厚地政信 裁判官 原田一隆)

別紙

抗告の原因

一、抗告人の申立にかかる大分家庭裁判所昭和三十六年(家)第八十四号名の変更許可申立事件について同裁判所は昭和三十六年六月三日抗告人に対して、本件申立を却下する審判をなし同年同月七日抗告人に告知された。

二、上記却下の審判をなした理由とするところは抗告人の宗教活動は祈祷所的な活動であつて真の僧侶としての宗教活動ではないと云うのでありこれに対して抗告人は全面的に不服であるのでこの抗告に及んだ次第である。

三、すなわち抗告人の宗教生活は未完成のものであり今後の修行努力にまたねばならないのであるが真の宗教生活に徹することは凡愚の身のたやすく達せられるものではない。またどの程度宗教生活に徹しているかの判定も明確な基準があるものではないから仲々困難を伴うものであります。

四、従つて真の宗教生活をなしている者のみに名の変更が許可されるとするのは酷に過ぎるものであります。仏なり神なり信仰の対象に対して帰依し没入しようとする真例な誠実な努力をなしており生活様式からもそのことが伺い知ることができれば名の変更の許可が与えらるべきだと思います。

五、抗告人は宗教によつて金品をえようとする者ではなくひたすら真言宗に帰依し仏道を会得すると共に他にもこれをひろめ説いて法悦をえたいと日夜修行にいそしんでいるものであります。

六、また抗告人が諸々の仏や神を祭つたことがあつたにしてもこれは抗告人の宗教生活の編歴を示すものであり、これによつて抗告人の真言宗帰依が真実でないと判断されるのは間違つていると思います。

七、以上の次第で抗告人の名の変更許可がえられたあかつきには抗告人はいよいよ仏道にはげみ真言宗帰依に努力砕骨する者でありますので名の変更許可相成りたく、大分家庭裁判所字佐出張所のなした却下の審判は失当でありますので抗告申立いたします。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例